NBKフェスタ2018 スーパープレゼンテーション 講演録

ホームランは狙って打つ

岡本 吉起 (おかもと よしき) 氏

僕はゲーム屋さんです。
学生の時から57歳の今までずっとゲームばかり作っています。
学生の時から、睡眠は3時間半と決めています。
また、いろんなものを犠牲にしても一つのことに絞った方が成功確率は上がる、という法則を持っています。
学生時代は、本も読まず、バイトもせず、ひたすら絵を描いていました。
頑張った結果、学校の最優秀賞をとり、天才、と言われました。

しかし、就職して業界に入ったら、周りはそんな天才といわれる人ばかりでした。
ゲーム会社に就職しましたが、デザインなどではなく、企画の部署に配属されました。
最初は、上司に言われるがままにゲームを作っていましたが、そのうち、面白いものを作りたい、と思って勝手にシューティングゲームを作りました。
完成間際に上司の言われるものを作っていないのがばれて、クビになりかけましたが、実際には、そのゲームは大ヒットしました。おかげでクビにはなりませんでした。
その時は、ヒット作を作りたい、と思っていたのではなく、僕だったらこうしたい、とほわんと考えて作っていただけです。
絵しか描いたことがない、ビジネスのことも分からない中でゲームプランナーになり、なんとなく、なんとかなる、と思って作ったゲームが、結果的に当時世界一の大ヒット商品になったのです。
しかし、部下に「僕が世界一のゲームを作ります。」といわれた時に気づきました。世界一というのは、狙うものなんだ、と。
それまでは全然世界一を狙っていませんでした。たまたまホームランを打った。
今はホームランを打つ、と決めて打っています。当然、打てない時もありますけれど。

発明は不便不満の先にある

僕は全くのゼロからゲームを作ったことはありません。
これは斬新なセリフですよね。
でも、皆さんも、何かからヒントを得て仕事をされているでしょう。
もちろん何も発明してこなかったわけではなく、特許申請もしています。
発明はどうやってするのでしょうか。
たまたまひらめく?キーワードを積み上げて、紡いでいく?
僕は、発明は僕が不便だと思う先にある、と思っています。
例えば、トイレ。
僕が子供の頃は、ツボに用を足して、それを柄杓ですくって畑に撒きに行っていました。
そのうち家の中に便器ができました。外には行かなくてよくなりましたが、臭いがひどい。
それから、ボタンを押したら水が流れる水洗便器ができました。
これ以上の進化はない、と思ったのに、センサーがついて、勝手に水が流れるようになりました。
でも、僕はまだまだ不満です。まだまだ改善する箇所はあると思います。
ここにいらっしゃる皆さんがどのような業種の方かはわかりませんが、今ある「サービス・ヒット商品」の先に次の「サービス・ヒット商品」がある、というのは共通していますよね。
つまり、今あるサービスの不満を改善したのが「発明」、と言えるのではないかと思います。

それで、僕はゲームを作っています。
そんなに売れていないけど面白いな、と思っていたあるゲームの、ここがよくない、ここをもっとこうすれば面白くなるのに、というところを改善して「2」を作ったら、爆発的に売れました。
不満を改善したら売れたのです。

ヒットの条件①「興奮度を上げる」

ヒットするゲームの条件を、皆さんのために特別にお教えします。 「聞いておもろい」
「見ておもろい」
「遊んでおもろい」
「繰り返し遊んでもおもろい」
まず、これらの条件を満たすもの。
あともう一つ、聞いて、見て、遊んで・・・と進んでいく過程で、興奮度を上げていくことです。
例えば、映画の予告編。
本編より面白い予告編って、ありますよね。予告編を見て、期待して本編をみて、がっかりする。
聞いておもろい、見ておもろい、遊んで・・・で、興奮度が下がっているわけです。
これではだめですよね。

ヒットの条件②「過去を忘れ、アップデートしていく」

モンスターストライク(以下、モンスト)って知っていますか。
育てたモンスターを自分の指で引っ張って、敵モンスターに当てて倒す、アクションRPGです。
世界累計利用者数は4900万人を突破し(※2018年12月30日時点)、2017年の国内スマホゲームセールスランキングでは第1位となっています。※注1
私も開発者の一人として携わりました。
では、モンストのヒットの要因は何でしょう。
当時、株式会社ミクシィ(以下、ミクシィ)から「みんなが集まってワイワイガヤガヤ楽しめるものを作りたいから手伝って欲しい」と言われました。
このミクシィの考え方はすごいです。まさに、絶対に売れるキーワードです。
あと、「ビリヤードの要素を入れるのはどうですか?」というヒントもいただきました。
2週間後に試作品ができ、その時点で「どこまで上を目指せる内容でしょう?」といった話を関係者でしていました。
その時、「世界2位ですね。」と僕は公言しました。
また、ミクシィと僕のチームの得意な分野がかぶっていなかったのも幸いしました。
ゲームの企画・プログラムは僕のチームが得意。
サーバーのプログラムはミクシィが得意。
凸凹がうまくはまりました。
お互い、相手がやっている分野は苦手だから口出ししませんでした。
それがよかったのです。
そして7か月後に完成しました。

モンストは「みんなが集まって、ワイワイガヤガヤ楽しい」ゲームです。
人気の遊園地で、アトラクションの順番待ちをするカップルがそれぞれ携帯ゲームやラインをして、全く会話をしない。いったい何が面白いのでしょう。
待っている間に、僕たちの作ったゲームを一緒にやったら、絶対楽しい。
そんな思いから、マーケットは絶対ある、とみんなが確信していました。
作っている間から、「このゲームは、絶対売れる」と、ワクワクが止まりませんでした。

モンストの中身について、ですが、
これまでのゲームには必ずチュートリアルが付いていました。
でも、プレイする人は、チュートリアルなんてしません。
時間もかかるし、覚えられない。
だから、チュートリアルは省く。いらない。
この思い付きは自分でも天才だと思います。

iPhoneの使い方と同じです。
皆さんiPhoneを使うとき、説明書なんて見ないですよね。
勝手にさわる。気が付いたら色々できるようになっている。
僕たちのゲームも説明なんか、全くいらないんです。

チュートリアルがあったほうがいいと信じている人もいます。
過去に、チュートリアルがあるものが売れてきたから。
でも、過去のヒットの記憶、というものが一番足を引っ張るんです。
過去は忘れて、どんどんアップデートしていくことが大切です。

モンストにおいて、僕たちが発明した一つが、「ガチャ」です。
ゲームを進めていくには色んなキャラクターを集めて育てることが必要です。
「ガチャ」を引いて出るキャラクターは完全にランダムだから、同じキャラクターがかぶってくる事も多い。同じキャラばかりだとがっかりしますよね。
それだと、みんなこのゲームで遊んでくれなくなる。すると、僕たちは寂しくなります。
そこで、僕たちは「運極(同じキャラを99体集める)」を発明しました。「運極」のキャラクターを使用してゲームをやると、よりボーナスがもらいやすくなる仕組みです。
同じキャラクターが当たっても、「ヤッター」となるのです。
ユーザーの「ヤッター」と、僕たちの「ヤッター」が一致したのです。

新商品の法則

NBKフェスタ2018スーパープレゼンテーションの様子

一般的に、一つのジャンルで最初に商品を出した人が一番すごい、と言われています。
最初に出た商品がトップの座を守り続けられる確率が高いのです。
では、二番はどうなのか。
二番手の法則、というものがあると思っています。
・悪いところを改善して出す。
・でも、売上げは一番手の半分くらい。

では、一番手を取る方法とは、何でしょうか。
既存にある何かと何かを組み合わせる、ということです。
もちろん、組合せには、相性が大切です。
既存にある相性のいいものを足すことにより、新しいジャンル、商品が生まれるのです。

※注1 出典元 「ファミ通モバイルゲーム白書2018」

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