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田舎de起業フォーラム開催に向けて
田舎de起業研究会リポート

第2回(H19.1.22)


 「田舎de起業研究会」の第2回目の会合が1月22日、NBK事務局会議室において開かれました。プレゼンテーターは、丹波市にUターンされた小橋昭彦氏。インターネットなどを使った事業が「住民自らが情報の発信手になる画期的な取り組み」と評価され、平成17年度の『地域づくり総務大臣表彰・情報化部門』を受賞されています。  今回は、「地域情報化とIT起業」のテーマにより小橋氏の講演内容をレポートいたします。

 コピーライターとして出発し、その後マーケティング分野に携わってきた筆者が「地域情報化」と呼ばれる分野に本格的に取り組み始めたのは、2002年初頭に兵庫丹波地域にUターンして以降のことです。経済的規模では微々たるその活動が、平成17年度地域づくり総務大臣表彰をいただけたのは、あるいはアルビン・トフラーが『富の未来』で指摘しているような、経済社会から知識社会への重心の移行を先取りしていた点があったということかも知れません。  1月22日に行われた第2回「田舎de起業研究会」では、こうした立場から21世紀情報社会における企業や経営のあり方を探り、プレゼンテーションさせていただきました。本稿ではその中からポイントをかいつまんでご紹介させていただきます。
            プレゼンテーター/小橋昭彦  (NPO法人情報社会生活研究所 代表理事 関西ブロードバンド株式会社 取締役)

■田舎発のITビジネス
 第2回「田舎de起業研究会」のテーマは「IT」。まずは地方におけるインターネットビジネスを概観するところから始めましょう。
 日本でインターネットが普及し始めたのは、1995年頃のことです。ネットで買い物をする人が少なかったこの時期にいち早く創業し、成長したのが関西のオンラインショップでした。京都にあるTシャツ通販の「イージー」や、大阪心斎橋の傘屋「みや竹」などが旺盛な取り組みをしており、互いに情報交換をするなかでオンラインショップのひとつのモデルを作り上げました。
 同じく京都では1997年にサービスを開始した「まぐまぐ」が利用者数を増やしていました。「メールマガジン」という新しい分野を開拓した功績ははかりしれません(2001年に発刊された「小泉内閣メールマガジン」を覚えていらっしゃる方も多いでしょう)。また、現在も長崎に本社を置く株式会社ゆびとまが、同窓会サイト「この指とまれ!」を開設したのが1996年のことです。このように、インターネットで直接お客様を得るサービスは企業立地を問いません。
 ほかに、テレワーク型の受託ビジネスも地域を問いません。代表的な企業に、北海道と奈良にオフィスを構え、全国百名以上のSOHOワーカーをネットワークして、受託したデータ入力やウェブサイト制作などの仕事を行っている「Y's STAFF」があります。
 地域情報化の代表事例は西日本に多いとよく言われるのですが、IT起業においても、注目の事例は地方に多いのです。

■地域情報化とは
 地域情報化にはいくつかのパターンがあります。言葉遊びになりますが、それを「てにをは」ならぬ「で・に・を・から」でまとめてみましょう。
 まず「で」というのは、地域という場所「で」行う活動です。筆者が副委員長をつとめている和歌山県橋本市の起業支援事業は、統合で使われなくなったJAの建物を市が借り上げ、光ネットワークを設置した上で、創業期の起業家に貸し出すものです。地域に眠る土地や建物を情報化によって有効活用し、活性化を目指すのがこのパターンです。
 次に「に」は、地域の住民「に」サービスを提供する事業です。これも筆者が関係している事例から紹介するなら、日経地域情報化大賞を受賞した、兵庫県の関西ブロードバンド株式会社があります。同社は、自治体や地域団体の協力を得るなどの知恵を絞り、過疎地にブロードバンドを提供する挑戦を続けています。
 3番目の「を」は、地域内の人と人「を」つなぐサービスです。やはり日経地域情報化大賞を受賞した事例に、(財)大阪市都市型産業振興センターが運営する「商談上手」があります。地域内の発注者と業者を結ぶサービスで、サイト上で仕事を依頼すれば、登録している複数の業者から見積りが提出され、その中から発注先を選ぶ仕組みです。
 最後の「から」は、地域「から」都市部に情報を発信するタイプです。当研究所が運営している『田舎.tv』などがそれです。このなかで注目すべきは、住民参加型の取り組みでしょう。住民が自分たちで映像番組を制作する「住民ディレクター」や、誰もがオンラインで講座を開設できる「インターネット市民塾」など、発祥の地だけではなく他地域に広がっている仕組みが少なくありません。

■ウェブの進化と地域
 これら地域情報化の具体例を見渡して、我田引水気味ながら指摘しておきたいことがあります。それは、これら地域情報化の事例の中に、コンセプト面でインターネット社会の進化を先取りしていたものがある、という点です。
 昨年広く知られるようになった「Web2.0」という言葉をご存知でしょうか。インターネットの新しい動きを総称して呼ぶものですが、その最大の特徴は「個人が表現する」ところにあります。インターネット上の日記的な仕組みである「ブログ」や、友人と情報交換する「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」、写真や動画の投稿サイトなどが代表例です。
 地域情報化の現場では、こうした「個人による表現」を重視する姿勢が、当初から持たれていました。『田舎.tv』は内容的にはブログそのものですし、住民ディレクターやインターネット市民塾の活動は、動画投稿サイト的な動きです。地域住民の目線に立って取り組むことが、個人が表現するインターネット時代を先取りしていたのです。
 同じことが、今も地域情報化の現場で起こっているように見ています。現在、地域においては、「コミュニティ(再生、保持、活性化)」が大きなテーマになっています。また、安全・安心な社会を築くための「信頼性の確保」も重要です。地域情報化は、これらの課題を解決することを期待されています。
 同時に、コミュニティ・マネジメントと信頼性の確保は、これからの情報社会においても避けて通れない課題なのです。個人が表現するネット社会において、それらの表現や発信者を「信頼」する根拠をどこに置くか、また個人の自由とコミュニティの規律をどう並立させるか。「田舎」に目線を置いてIT起業に取り組むことは、こうした情報社会の最先端テーマに取り組むヒントになると考えています。

■クリエイティブクラス争奪戦へ
 地域情報化を通したまちおこしを考えるとき、意識するのは「クリエイティブ・クラス」という考え方です。アメリカの学者が提唱した概念ですが、アーティストやプログラマー、企業の商品開発担当者など、クリエイティブな業務に携わっている人々が、アメリカではすでに3割いるといいます。こうした人々を一種の社会階層と考えるのです。この層に属する人たちは、「どこの会社に所属している」ではなく「どこに住んでいる」から自己紹介する傾向があるそうです。この層を呼び込むことが、まちを元気にします。
 アメリカの場合は、クリエイティブ・クラスが居住地を選択するにあたって、ゲイでも住みやすいなど寛容性が重視されるといいます。残念ながらそれは田舎では低いのですが、日本においては、少し違う基準があるかもしれません。丹波地域にIターンした人たちで組織している「たんば田舎暮らしフォーラム実行委員」のメンバーが、大学教授や編集者、陶芸家などまさに「クリエイティブ・クラス」であることを見るにつけ、ここに何かヒントがあるのではないかという思いがわきあがります。
 具体的な一歩としては、やはり場所にとらわれない「IT」という分野の、まさにクリエイティブ・クラスである起業家をひきつけることでしょう。NPO法人情報社会生活研究所としても、この視点から田舎暮らしの推進を支援する所存です。同時に、金銭ではなく智の豊かさが勝負を決める情報社会を念頭に、クリエイティブ・クラスに向けた情報発信を強化しています。また、「田舎体験」をキーワードに、都市の住民と田舎の住民を結んで新しいタイプのコミュニティ活動を活性化したいとも考えています。今後ともご注目、ご支援いただければ幸いです。

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